自死遺族を取り巻く法律問題~労働問題~

こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。11月も今日で終わりです。来週からいよいよ12月突入です。今年もあと1か月ですが、司法書士の業界は、通常12月は忙しい月です。今年中に対応してほしいとか12月決算の不動産会社さんやその他の企業さんが多いからです。まあ、心理的にも今年中にできることは年内にと思う方が多いですから必然的に仕事も増えます。これは司法書士業界に限ったことではなく、一般の企業でもそうなんでしょう。それでは、今日のコラム「相続・遺言のポイント」は、前回に引き続き自死遺族を取り巻く法律問題のお話しをしていきます。今回はその中でも労働問題にスポットをあてていきます。労働問題により自死してしまった方の遺族がどのような法律問題に直面するのか具体的に見ていきましょう。

労働問題とは

一般的な労働問題から説明していきます。最近の雇用情勢の悪化に伴い、勤務先の問題が原因でうつ病などの精神疾患を発症する方が増えていきます。勤務先の問題とは、メディアでも取り上げられていますが、パワハラ、セクハラ、同僚同士でのいじめなどがあります。この問題は会社をあげて対応していかなければ根本的な解決は難しいです。また、不当解雇も労働問題の一つです。解雇とういうものは従業員の地位を奪う重大な処分ですから、解雇理由につき専門家に相談することが必要なケースが多いです。さらにサービス残業についても大きな問題となっております。長時間残業は精神疾患の発祥の原因となる可能性がありますので、なんらかの対応をしていく必要があります。精神疾患を発症し危険な状態になっている場合は、休職をすすめることも必要です。このように労働問題は近年非常に多様なものがあり、自死につながる可能性もあるものとして、非常に大きな問題となっております。

労災と損害賠償

上記の労働問題により心理的負荷によって自死してしまった遺族は、国に対する労災の請求、勤務先の企業に対する損害賠償請求の2つの手続きをとることができます。労災請求と企業に対する損害賠償請求は、それぞれ完全に独立した手続きですので、どちらかを先に請求することも両方同時に請求することもできます。通常、労災によって自死が業務に起因してものだと認められると、その結果を企業に対する損害賠償請求において証拠として利用できるので、労災の請求を先行させて、労災が認められてから損害賠償請求を行うことが多いです。

ちなみに、労災の手続きは労働基準監督署長に対して行います。労働基準監督署長や労働保険審査会でも労災認定が出ない場合は裁判所に対して行政訴訟を行っていきます。労働基準監督署長の段階では約1年で結論がでることが多いようです。また行政訴訟の場合はさらに1~2年はかかることが多いです。

損害賠償のための証拠収集

企業に対し損害賠償を行う前に、亡くなった方の財産(権利・債務を含む)について相続するか、相続放棄をするかを検討しなければなりません。損害賠償請求権は当然、相続財産にあたりますが、亡くなった方が他に大きな負債を負っていた場合、相続放棄しなければならないこともあるでしょう。その相続放棄は亡くなったことをしってから3か月以内に家庭裁判所に申立てしなければなりません。しかし、3か月という期間は、遺族にとって非常に短い期間です。そこで、この期間内にプラスの財産とマイナスの財産の評価に迷った場合は、家庭裁判所に対し、この3か月の期間を伸長してほしいと申し立てることができます。この期間伸長は、必要があれば数回にわたって行うことができますので、その間に相続財産を調査して、マイナス財産がプラス財産を上回る場合は、相続放棄という選択をすることもできます。

さて、企業に対し損害賠償請求することが決まった後、遺族はその労働問題によって自死したことを証明するための証拠を収集しなければなりません。この証拠は企業側にあるものが多いといえます。そして、企業側にある証拠は時間の経過とともに散逸、消滅してしまったり悪質な場合であると破棄・改ざんされてしまう場合も少なくありません。そこで、裁判所を通じ、企業側にある証拠を収集する証拠保全という手続きを利用することができます。自死の原因について勤務先の労働問題を疑った場合、まず早期に証拠保全を行うことが大切です。また、手帳、パソコン、携帯電話など遺品が重要な証拠となる場合がありますので、遺品は大切に保存した方がよいでしょう。同じ職場の同僚などに話を聞ける場合は、会話の内容をICレコーダーで録音したり、陳述書という形で残すことがよいです。

最後に労働問題で自死してしまった遺族が請求できる権利には期間制限がありますので、そちらをご紹介します。

  • 遺族補償給付、年金、一時金の請求   自死から5年
  • 葬祭料の請求                 自死から2年
  • 労働者災害補償保険審査官に対する審査請求  業務外決定を知った日の翌日から60日以内
  • 労働保険審査会に対する再審査請求 再審査請求棄却の裁決を知った日の翌日から60日以内
  • 行政訴訟の提起 再審査請求棄却の採決を知った日の翌日から6か月以内
  • 民事損害賠償の請求 自死から3年または10年

労災が認められた場合は遺族特別支給金、遺族補償年金、遺族特別補償年金、遺族補償一時金、葬祭料、就学援助支給金などの補償を得ることができます。また、損害賠償請求では自死による慰謝料や将来得ることができた利益(逸失利益)を請求することができます。労災及び損害賠償請求により得られる金額は数千万円から1億円以上になる場合もあります。