自死遺族を取り巻く法律問題~生命保険問題、医療過誤問題~

こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。もう半月で新年を迎えますね。その前にやり残したことはないでしょうか?相続対策を聞いておきたい、不動産の名義変更、労働問題などなど、お気軽に当事務所まで相談ください。さて、本日のコラム「相続・遺言のポイント」は自死遺族を取り巻く法律問題の最終回で、生命保険問題と医療過誤問題をとりあげます。生命保険では自殺免責特約が定められていますがどのようなものなのか、また後半では医療での現場において医師が自死しそうな患者に対し適切な対応をとらず、自死してしまった患者さんの遺族が何をすることができるのかについて書いていきたいと思います。

自死による生命保険問題

自死による生命保険問題とは、いわゆる自死によっても保険給付を受けられるか否かということです。保険法第51条1号では、「被保険者が自殺」したとき、保険会社が保険給付を行う責任を負わないと定めています。これがいわゆる自殺免責特約です。具体的には、生命保険約款には、一般的に責任開始日(契約の申込書へ署名捺印した日、医師による検査または告知日、第1回目の保険料支払いが終了した日)から3年または2年以内の自死については保険給付を行う責任を負わないと定められています。このように自殺免責期間内に自死が行われた場合、自死であることを理由に保険請求を認めない契約となっているのです。

それでは、免責期間内の自死であった場合保険会社は全て保険金の支払いを免責されてしまうのでしょうか。次の事例を検討してみます。

夫が自殺しました。原因は勤務先での長時間労働だと思います。夫は早朝から深夜まで働き、休みもほとんどありませんでした。自殺する2か月前からうつ病になり、そして自殺しました。保険に入ってから2年のため自殺免責特約により保険会社が保険金の支払いを拒否します。私には1歳の子がおり、小さい子を抱えて仕事もできず途方に暮れています。どうしたらよいでしょうか?

上記のような事例の場合、夫に先立たれて遺された妻、子には少なくとも生活資金が必要となります。労災や会社への損害賠償は時間もかかるためすぐにお金が入ってくるわけではありません。そこで、保険金を請求したら自殺免責特約により支払を拒否されてしまったわけです。なんとか法律的に解決したいですね。

まず、自殺免責特約における自殺とは、故意に自己の生命を絶って死亡することをいいます。そのため、被保険者である夫がうつ病を発症し、意思無能力であったり、精神疾患による精神障害のため、自由な意思決定に基づいて自己の生命を絶ったとはいえない場合、自殺免責特約における自殺にはあたらないと解釈されています。したがって、自殺免責特約期間中の自死であっても、夫が自由な意思決定に基づいて自己の生命を絶ったといえないのであれば、自殺免責特約は及ばず、保険金の支払いが認められると解することができます。

意思無能力などの立証責任

上記の例で、夫が自由な意思決定に基づいて事故の生命を絶ったといえないことは、遺族、保険会社、どちらが立証責任を負うべきでしょうか。実務上、遺族が夫の意思無能力や自由な意思決定に基づいて自己の生命を絶ったといえないことについて立証責任を負うと解されています。そのため、遺族が自死した夫の意思無能力を立証するためには、自死に至る経緯、受診しているのであればカルテなどの医学的資料、周りの人たちの証言、自死の状況、労災認定がされている場合は、労働基準監督署が作成した資料など必要な資料を早期に集める必要があります。

ちなみに自殺免責特約に定められた期間を経過した場合、遺族は無条件に保険給付を受け取ることができるでしょうか。自殺免責特約に定められた免責期間を経過した自死は、生命保険契約とは無関係な動機、目的による自死であり、専ら保険金の取得を目的としたものとはいえないと推定されると解されています。そのため自殺免責特約の免責期間を過ぎた自死は、犯罪行為が介在し当該自死による死亡保険金の支払いを認めることが公序良俗に反するおそれがあるなど特段の事情がある場合でなければ、自死の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象とはならず、遺族は保険給付を受けることができると解されています。

自死による医療過誤問題

病院や担当医師は、診療契約に基づき自死の予見可能性及び回避可能性を前提として精神障害に起因する自死を防止する義務を負担しています。そして、自死を防止する注意義務は診療当時の臨床医学における医療水準に基づいて検討されると解されていますので、治療のガイドライン、医学的論文、病院の性質、規模などを考慮して診療当時の臨床医学における医療水準を確定していく必要があります。そのうえで、病院や担当医師が自死を防止する義務に違反したか否かを検討することになります。この点、精神医療の目的は患者の病的障害や不安定性を様々な療法によって取り除き、可能な限り患者の自由や人権を尊重することで患者の社会復帰を目指すことにあるとされています。そのため、精神医療は患者に対する治療と社会復帰を両立させなければならないことから他の医療現場より医師の判断の裁量が広いと解釈され、病院や担当医師の自死を防止する義務違反の立証が困難となる場合もあります。

遺族が、自死した家族が通院入院していた病院や担当医師に対し、自死について損害賠償を請求するためには、意思に課せられた自死防止義務違反と自死との間に相当因果関係がなければなりません。相当因果関係の証明は経験則に照らしてすべての証拠を検討し、特定の事実から特定の結果が生じたという関係が認められるような高度の蓋然性を証明することであり、その判断は、一般人が疑いを差し挟まない程度に真実であると確信するようなもので足りると解されています。もっとも、通常の医療過誤とは異なり、自死という行為が介入しているため、相当因果関係の立証は難しくなる場合もあります。

なお、自死防止義務違反と自死との間の相当因果関係が否定された場合であっても、医療水準に基づいた治療が行われていれば自死の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が証明された場合は、一定の範囲で病院や医師に対し損害賠償の責任を負わせることは可能です。

また、自死の結果に対して病院及び医師に対する責任を問えない場合であっても、自死した者や遺族に対する説明義務違反が問題となることもあります。説明義務は自死した者自身の自己決定を尊重するものです。そのため自死した者が精神障害に陥っていた場合であっても自己決定を尊重する観点から、可能な限り治療に関する説明と同意は必要だと考えられますし、保護者がいる場合は保護者に対する説明義務も問題となりえ、その場合には説明義務違反に基づく賠償責任を追求していくことも検討できます。