自死遺族を取り巻く法律問題~賃貸借編~

こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。最近、お腹がよくすきます。秋だからでしょうか!?年末年始は間違いなく太りますので、いまから体型管理していかないと大変なことになってしまいますよね。さて、本日のコラム「相続・遺言のポイント」は以前に自死遺族に対するヘルスケアのお話をしましたが、本日は、自死遺族にどのような法律問題が起きるのか詳しく説明したいと思います。自死遺族にとっては、悲しみに打ちひしがれる間もなく、様々な法律問題がでてきてしまいます。私個人の考えでは自死といっても、特別なこととと思うべきではありませんが、やはり特異な目でみられることもあるでしょう。自殺に対する偏見をなくし、いかに自殺というものを予防していくかが私自身法律家として考えなければならないことだと思っています。それでは、具体的に説明に入っていきます。

自死遺族の賃貸借問題

それでは、ここで一つの具体例をあげます。

一人息子であるAがAが借りているアパートで自殺しました。そのアパートの賃貸借契約は父親であるBが連帯保証人となっております。自殺してから間もなく、アパートの大家から突然手紙が届き次のような内容でした。法律上、前の賃借人が自殺したことを次の借り手に伝えなければならないが、気味悪がって入居希望者が現れない。自殺があった部屋は7年は借り手がつかないと思うので、賃料7年分の損害賠償として500万円支払ってほしい。さらに部屋全体のリフォームをしなければ入居者が入らない可能性が高いのでリフォーム代として300万円も合わせて請求します。このような請求がきたときBとしてはどのように対応すべきでしょうか?

結論から先に回答しますと、このような場合、将来かかる賃料は1~2年というのが裁判での基準となります(地域によって異なります)。賃料1~2年度分を基準に大家と話し合いをして交渉した方がよいでしょう。ちなみに、このときの賃料は借りていた部屋のみの賃料であり、上下両隣の部屋は含みません。また、リフォーム代は自殺があった部屋の汚れが目立つ部分についてのみ負担を負います。そのため、自殺場所が浴槽であればキッチンやリビングの壁紙などをとりかえる必要はなく浴槽のみのリフォーム代を支払うことで足りるかと考えます。

自死遺族が損害賠償義務を負う根拠

それでは、なぜ自死遺族であるBが家族の自死によって、賃貸人に対して損害賠償を負うのでしょうか。事例の場合、Aとアパートの大家との間ではアパートの賃貸借契約が成立しています。この賃貸借契約では、法律上、賃借人はアパートの引き渡しを受けてからこれを返すまでの間、善良な管理者の注意を持って使用収益すべき義務を負う(善管注意義務といいます)と解釈されています。そして、Aの自死は、賃貸物件の価値を下げるので、この善管注意義務に違反したと解釈されていますのです。そして大家がAに対して損害賠償請求をすることができますが、その損害賠償義務については連帯保証人であるBも負うことになります。また、Aの相続人としてBが損害賠償支払債務を相続したという場合もあります。私的には自死であろうと他の死であろうと区別するべきではないと思いますが、現在の裁判所の判断ではこのような立場をとっております。

なお、仮にAが自殺当時うつなどの状態で責任無能力であったらどうでしょうか。責任能力とは、自分の行為によって発生した結果が違法なものとして法律上非難されるものであることを理解し、認識する能力のことです。その能力が欠けている場合は、法律上損害賠償を負う必要はありません。しかし、Aが当時責任無能力であったことを医師の診断書など客観的な証拠で示すことができればBは損害賠償を免れる可能性もあります。

賃貸人から請求がきたときの対応方法

賃貸人から損害賠償の請求が来た場合、すぐにお金を支払うのは避けるべきです。必ず、賃貸人からの請求の具体的な中身と根拠資料を書面で受け取り、判断すべきです。賃貸人が請求できる損害賠償は具体的には下記のとおりです。

  1. 自死によって破損した箇所の修理代などの原状回復費用

修理代として支払う必要があるのは、原則として自死によって破損した部分に限定されます。悪質な賃貸人は、自死によって破損した部分がないのに、フローリング、壁紙、バスタブなど関係のない部分も改装し、その費用を自死遺族に請求する場合もあります。このような自死によって生じた破損部分は支払う必要がありません。

  1. 将来賃料

将来賃料については裁判においても明確な基準があるとはいえません。一般的に、賃貸人は数年分の将来賃料を請求する場合が多いですが、どうして数年分の賃料を請求するのか、具体的な根拠を示すように求めるべきです。不動産の地区年数、賃料、空室率、自死の状況などを考慮して、賃貸人の示す根拠が本当に妥当なものといえるのか検討します。また、将来の賃料については、新たな賃借人をみつける時期が早ければ早いほど損害額が減少します。賃貸人がわざと長期間にわたって空き室のまま放置したり、低額な賃料で新たな賃借人と契約した場合は、将来賃料の減額を求めたほうがよいでしょう。

告知義務について

事例の場合BはAが自死したことを賃貸人に対して告知する必要はあるでしょうか。このような場合、法律上、告知義務があるということが明文化されているわけではありません。しかし、後に自死であることが判明した場合、賃貸人はBに対し、損害賠償請求を行ってくる可能性があります。また、賃貸人は、新しい賃借人に対して瑕疵担保責任を負っておりますので、新しい賃借人が契約を解除すると、それに伴った損害の賠償を請求される可能性があります。そのため、自死の事実を安易に隠ぺいすることについては慎重であるべきでしょう。

以上、本日のコラムでした。次回も自死遺族まつわる法律問題について書いていきます。

 

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