信託を活用した事業承継のスキーム1

こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。4月ももうすぐ終わりますね。私事ですが、今週は第2子が誕生し嬉しいのと同時に仕事と育児両方がんばらねばという気持ちも強くなりました。

さて、本日のコラム「相続・遺言のポイント」は、前から引き続きテーマにしている「信託」について話していきます。前回は、信託を活用した相続についてでしたが、今日は事業承継にスポットをあてていきたいと思います。事業をやられている方は、いつかはその事業を誰かに譲り渡すときがきます。それが相続前なのか相続に伴って行うのかケースが分かれますが、今回は相続対策の一つとして話していきます。

事業承継の難しさ

事業承継とは文字通り、「事業」を「承継」するわけです。つまり、後の方に引き継ぐということです。引き継ぐ方が子どもなどの親族なのか、同業種の企業なのかで承継の仕方が変わっていきます。親族以外の第三者(企業)であれば、事業譲渡、合併という方法で承継することもできるわけです。事業譲渡であればその事業が魅力あるものであれば買い手がつくのでさほど問題にはなりません。

問題となるのは子などの親族に事業を譲渡する場合です。事業譲渡をする場合、自分の生前にする場合に問題となるのが贈与税です。例えば会社をやっている方が株式を後継者である子に贈与すると、その後継者が多額の贈与税の負担を強いられるわけです。かといって、相続を契機に事業承継する場合には、相続人同士の話し合いがでてきます。あらかじめ後継者が決まって親族の間でも話がついていればさほど問題にはならないでしょう。しかし、相続人の一人が自分が少しでも取り分をもらいたいと思い、相続権や遺留分を主張するということはよくある話です。特に中小企業や個人事業の方の相続財産というのは、事業で不可欠な財産がほとんどですので、その相続財産をほとんど後継者に相続させなければなりません。しかし、他の相続人の同意がなければスムーズな事業承継ができません。ここに事業承継の難しさがあるのです。

事業承継の方法

このように事業承継について何も対応していなくて相続が発生することはできるだけ避けなければなりません。そこで、事前に対策が必要となります。考えられる対策としては、3つあります。

  1. 遺言
  2. 種類株
  3. 信託

まず、1の遺言は、事業者が遺言で後継者にしたい子どもに事業用の財産を全て相続させるという方法です。この場合、相続が生じた後に後継者が単独で事業用財産を承継してスムーズに事業を行うことができます。しかし、遺留分が問題となります。他の相続人から遺留分を主張されるとその後継者が自分の資産から他の相続人に遺留分相当額を支払いしなければなりません。そのために事業用財産の一部を売却したりすることになってしまうことも考えられます。

遺言で事業承継する場合で大事なのはなんといっても遺言の内容です。まずは、遺留分の減殺対象となるものをあらかじめ遺言で定めておくことが大事でしょう。また、遺留分をできるだけ侵害しないように事業用財産以外を他の相続人に相続させる内容がよいと思います。あとはできれば付言を入れて、なぜ後継者に選任したのか、どうしてほしいのかなど親としての気持ちを書いておくことが重要です。当然、遺言を使ってスムーズに承継できるよう遺言執行者は定めておきましょう。

次に2の種類株です。これは会社法で定める拒否権付株式を利用する方法です。相続が起きると事業承継のリスクが高まるのであれば、生前に事業承継をしておくべきです。しかし、事業者が後継者に生前に株式を贈与したいが、まだ現時点では後継者が未熟なので完全に譲りたくないというケースがあります。この場合に拒否権付株式(実務上、黄金株とよびます)を発行してその株式を事業者が保有するということです。そのようにすれば、株式の譲渡を受けた後継者が誤った方向に事業を進めた場合、すぐに事業者が拒否権付株式を行使して対応するということができます。

最後に3の信託です。これは上記の方法に比べるとまだ活用例は少ないと思います。ここで、「信託」を活用しますが、信託の中の「自己信託」という方法を活用します。自己信託とは、委託者と受託者が同じである信託です。つまり、一定の目的に従って、自分が有する財産の管理・処分を自らすべき旨を宣言するというイメージです。もう少し簡単に言うと、自分で帳面を分けて、自分を「信じて託す」ということです。例えば、「私は自分の土地建物を子どものために受託者として管理します」ということを宣言することです。自己信託を行う場合は、必ず公正証書等の書面で行う必要があります。

この自己信託を活用することで、事業承継ができます。事業者がすべての株式をすべて信託財産として自己信託を設定し、受託者を事業者、受益者を後継者にするという方法です。そうすれば、事業者は受託者として引き続き株式の議決権を行使できるので、実質的に経営権をのこしたまま、株式を後継者に贈与することができます。そして、事業者が死亡した時に株式の権利帰属者として後継者と決めておけば最終的にその後継者が事業を承継することができます。

次回は、この自己信託を利用した事業承継のスキームを具体的にみていきます。

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