相続人に未成年者がいる場合は自由に遺産分割できない!?
こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。前のコラムから1ヶ月ほど経過してしまいました。定期的に記事を追加していきますのでこれからもよろしくお願いいたします。
さて、本日のコラム「相続・遺言のポイント」は、相続人に未成年者がいる場合の遺産分割についてです。遺産分割とは亡くなった方の遺産を相続人で分けることですが、その相続人の中に未成年者がいると事由に遺産分割できない可能性があります。なぜ、遺産分割の方法に制限がかかってしまうのか、本日はこちらに焦点をあてたいと思います。
特別代理人の選任
上記のように相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者は遺産分割協議を行うことができません。未成年者は一部の例外を除き単独で法律行為を行うことができないため、未成年者の代わりに親権者である親が未成年者の代わりに遺産分割協議を行うことができます。しかし、例えば、父が亡くなり、母と子である未成年者が相続人の場合、母は親権者として子を代理して遺産分割協議することができるのでしょうか!?答えはできません。なぜなら、母も相続人になるため母の1人の判断で遺産分割の内容を決めることができてしまい子の利益を害するからです(ただし、実務上は必ずしもそうでないと思いますが)。そこで、子の代わりに遺産分割協議を行う特別代理人を家庭裁判所に選任してもらうのです。その特別代理人が子に代わって母と遺産分割協議を行います。ちなみに、子が2人以上いる場合は子1人1人に対して特別代理人がつきます。特別代理人には親戚や司法書士や弁護士といった法律家が就任することが多いです。
法定相続分を確保する
特別代理人の選任は、未成年者の住所地の家庭裁判所に申し立てることが必要です。そして、その申立には遺産分割協議書案を提出する必要があります。それはなぜか!?家庭裁判所が未成年者の権利保護のため、未成年者に不利な遺産分割協議がされていないかを確認するためです。家庭裁判所は未成年者に不利な内容と判断した場合は特別代理人を選任しません。家庭裁判所は未成年者が法定相続分を確保しているかを確認しているのです。つまり、未成年者が法定相続分を確保していない内容の遺産分割協議は原則として認められないのです。結果として、自由に遺産分割ができないことになります。
実務での母親の想い
上記の取り扱いは子の利益に反する、子の権利を守るというものです。しかし、杓子定規に法定相続分を確保するということは分割を複雑にする可能性があります。一般的に父が亡くなり母と子が相続する場合、父と母は夫婦であり運命共同体であるため、子としては母が全て父の遺産を相続することを承認することが多いです。しかし、それが認められず、自宅不動産について母と子の共有にしなければならないこともあります。子が未成年者の場合、父・母が若いことが想定されるため、これから母が一人で子を扶養していかなければならないとなると遺産については母が相続し、これを養育費、生活費など母の判断で行いたいと考えている方が多いと思います。母としても未成年者である子を守っていかなければならないのに、杓子定規に上記のような取扱いがされることは、実務運営において不備であると個人的には思います。
遺産分割協議案として代償分割による方法
このように母に遺産を集約したい場合、家庭裁判所が認める遺産分割協議書案を考えなければなりません。仮に今後の生活費・養育費のため不動産を今後売却する場合は便宜上、母の単独名義にすることができるかもしれません。この場合は遺産分割協議案に記載することになるでしょう。また、全ての遺産を母が相続する代わりに母が子に代償金を支払うという内容(代償分割)で作成することも一つの方法です。実際には家庭裁判所の判断になるかと思いますが、このような方法で対応していくことになるかと思います。
未成年者がもうすぐ成人になる場合は、成人になるまで遺産分割を保留するというのも一つの手ですが、それまで遺産を動かすことができないなどデメリットも多いです。もちろん、事前に亡くなった方が遺言を作成してあれば母に遺産を集約することができますが、なかなか年齢が若いときに遺言を書いてあるということは少ないでしょう。
相続人が未成年者であるということは遺された親(父または母)も若いことが多いのが現実です。その遺された親の負担をできるだけ軽減するということも裁判実務、法令が汲み取っていかなければならないことかと思います。