家族信託を活用するメリット
こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。4月の第1週が過ぎ、みなさん新生活に慣れるため色々と頑張っているかと思います。新しい環境は慣れるまで少し大変ですが、乗り越えていきましょう!ちなみに私はとくに新しい環境というわけではありませんが、みなさんでスポーツを楽しむ「よこはまスポーツ広場」というものを立ち上げるため動いています。詳細が決まり次第、このホームページでもお知らせしていきますね。
さて、本日のコラム「相続・遺言のポイント」は、家族信託を活用するメリットについてお話しします。前々回くらいから信託のお話しを始めてますが、今日は復習も兼ねながら家族信託とは何か?どういうメリットがあるのかを説明し、次回のコラムで具体的事例を紹介していきたいと思います。相続に関わる専門家の方が、お客様に説明するときにも「家族信託」を一つのスキームとして加えていただければと思います。
家族信託とは
まず信託に対するイメージとしては信託銀行の業務と思われる方が多いでしょうか!?信託銀行が行う信託は、主に富裕層の金融資産のみを対象としてしているもので、資産運用、資産拡大が主な目的となっています。しかし、これからお話しする家族信託は、あくまで財産管理の手段であり、資産承継のための一つの方法ということです。
信託とは、所有者が特定の目的に従って、その所有する不動産、現金、債券、有価証券等の資産を信頼できる個人や法人(受託者という)に託し、誰かのためにその財産の管理、処分を任せるという仕組みになっています。その信託の中では営利目的ではない民事信託と信託報酬を得るという営利目的の商事信託に分けられます。営利目的の商事信託はまさに信託銀行が行っている信託です。そして、営利を目的としない民事信託の中で家族や親族を受託者として託す信託のことを家族信託といいます。
家族信託のイメージをつけていただくために次の事例を紹介します。
Aさんが司法書士に次の3つのことを長男にお願いするためにどうしたらよいか相談にきました。
- 元気なうちから自分の代わりに財産管理をしてほしい
- 自分の判断能力が衰えたら引き続き財産の管理をお願いしたい
- 自分が死亡したら資産を長男に相続させたい
上記の事例の場合、司法書士はどのような回答をしたらよいのでしょうか!?通常1を実現するためには、Aさんと長男との間で財産管理の「委任契約」をすることになるでしょう。委任契約とはある法律行為を任せるというものです。そして、2を実現するには、「任意後見制度」を利用することになるでしょう。あらかじめAさんと長男との間で任意後見契約を結んで、Aさんの判断能力が衰えてきたら長男が任意後見人として財産管理を行います。そして、3を実現するには「遺言」ですね。Aさんはあらかじめ遺言で財産を長男に相続させると定めておいて資産承継することができます。
以上は、一般的に提案できるスキームですが、他のスキームはあるでしょうか!?信託を活用すれば上記の1~3の制度を一つの方法で行うことができそうですね。まずAさんが委託者兼受益者、長男が受託者となる信託契約を結びます。その契約には、Aさんが死亡した時に、信託が終了し、受託者である長男に資産が帰属するという内容を定めておきます(利益相反の規定の排除に関しても定めます)。そうすることで、Aさんが元気なうち、また判断能力が衰えても長男が財産管理、資産運用を行うことができ、Aさんが死亡した場合にもその資産は全て長男が取得することができます。このように信託とは民法で定める機能の良いところをだけをとる制度といえます。
家族信託のメリット
家族信託を活用するメリットは次にあげるとおりです。
- 後見制度では難しい柔軟な財産管理や相続対策が可能
- 遺言では実現できない資産承継ができる
- 遺産について多様な方法で受取が可能
- 相続が発生した後でもスムーズな資産承継ができる
- 倒産隔離昨日を利用したリスクヘッジができる
- 不動産の共有問題に活用できる
具体的に見ていきます。
1については、成年後見を利用すると財産管理を行う成年後見人は成年後見制度の趣旨に反しないように財産管理を行わなければなりません。そのため積極的な資産運用などは原則できません。以上から相続対策を積極的に行うためには成年後見でなく、家族信託の方がより柔軟な財産管理ができるでしょう。
2については、遺言の場合、2次相続以降の資産承継先について遺言者が決めることができないので、遺言者の本当の思いを実現できないことがあります。しかし、信託であれば、2次相続以降の資産承継者も指定することができます。ここにつきましては次回のコラムで具体例をあげて説明します。
3については、通常の相続では一度に多額な遺産を受け取る方法しかありません。しかし浪費家が相続した場合、すぐに浪費してしまうリスクが生じます。そうすると浪費家や未成年者の生活費として相続した財産がすぐなくなってしまうことがでてきます。そこで信託では、相続がおきても信託契約は消滅しませんので、受託者が受益者のために毎月の定額給付など行うことでこのようなリスクを減らせます。
4については、相続が発生すると原則、預貯金などは凍結されてすぐに引き出せなくなります。葬儀費用などを預貯金で賄おうと思っていた方にとっては大変なことですよね。相続手続きには時間がかかるからです。しかし、信託では委託者が死亡して相続がおきても受託者がそのまま財産を管理することができるので、上記のような心配はありません。
5については、信託財産にすれば委託者固有の財産から隔離されるため、委託者が破産しても、信託財産は守ることができます。
6については、共有同士の不動産について信託すれば管理処分権限を受託者に集約させることができるので、不動産の運用・処分が可能となります。
それでは、次回は具体的な事例をみていくことにします。