外国人の相続登記は難しい~渉外相続登記~②
こんにちは、横浜の司法書士の加藤隆史です。今年も例年以上に寒い日が続きますね。そして、今日で1月も終わりです。1年のうちの12分の1が過ぎましたが、時間が経つのが本当に早いです。1日1日を大切に過ごさないといけませんね。
さて、本日のコラム「相続・遺言のポイント」は、前回に引き続いて、外国人の相続登記、つまり渉外相続登記についてお話しします。前回のコラムでは、亡くなった方、被相続人が外国人の場合は、まずどの国の法律が適用されるか調べて、その相続法を読み解くというところまで説明しました。前回の準拠法の決定というのが一番大事なところですが、今回は、その後の相続人決定のための相続書類の収集、遺産分割についてお話をします。渉外相続登記でもっとも難しい添付書類の収集の話です。
相続登記に必要な書類の収集
実は、渉外相続登記において、この必要書類の収集というのが、一番難しいところです。相続法についてどの国の法律が適用されるかについてはお話ししましたが、日本の不動産の相続登記では、日本の不動産登記法が適用されます。そのため、日本の不動産登記法に記載されている相続書類を集めなければなりません。不動産登記法では「相続を証する書面」が必要ということですが、具体的には下記の事実がわかるものを収集する必要があります。
- 被相続人が死亡したという事実
- 相続人が誰であるかという事実
- 他に相続人がいないという事実
日本の場合は、戸籍謄本等を取得することで上記の事実が全て証明できます。特に「他に相続人がいないという事実」については、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等を収集することで証明することができるのです。その点、日本以外の国では、日本の戸籍制度のように国民すべての家族関係やその生死、身分変動などを連続的に記録、備置して個人の身分情報を何代にも遡って親族関係や居住関係を調査する制度はありません。そもそも日本の戸籍制度は日本の占領地であった国でしか採用されていません。
実際には、出生証明書や婚姻証明書、死亡証明書など可能な限りの証明書を入手することから始めます。しかし、それらの証明書では、「被相続人が死亡したという事実」、「相続人が誰であるかという事実」は証明できますが、「他に相続人がいないという事実」は証明できません。そのため、そうした場合には、相続人全員が「私たちは被相続人の相続人であり、私たち以外に相続人はいません」という旨の当該国の在日領事館や公証人の認証を受けた宣誓供述書を手配することになります。
被相続人が韓国人の場合の相続登記
韓国には日本の占領時から戸籍制度があり(現在は廃止)、さらに2008年に導入された家族関係の登録等に関する法律に基づく制度により、戸籍謄本や登録事項証明書を取得することで相続に必要な書類とすることができます。しかし、その証明書の取得が非常に難しくなっています。以前は配偶者や直系血族、兄弟姉妹から委任状をいただき、戸籍取得ができていましたが、現在は代理人による請求を認めていません。相続人本人に取得していただきますので時間がかかります。
そのため、銀行が外国の方に住宅ローンで貸し出したが、滞納が続きその後その外国人が亡くなってしまったケースが非常に問題です。競売をかけるためには法定相続人名義に相続登記をいれなければなりません。しかし、当事者は滞納している方の相続人ですので任意に手続きしていただくことはないでしょう。この場合、債権者代位という方法で債権者が代わりに相続登記を行いますが、不動産の所有者が外国人の場合に添付書類の取得ができないというところでストップしてしまいます。私も当該事案にあたったことがありましたが、結局戸籍等の身分関係に関する証明書がとれないため、相続人が把握できず、ストップしてしまいました。このような事態ですので、銀行が外国人にお金を貸さないということがおきてしまう可能性もあると思います。この問題は早期に解決しなければならないことかと思います。
話はずれましたが、相続書類の取得ができましたら、相続人が確定しますので遺産分割協議を行います。基本的には日本語の遺産分割協議書に署名・押印していただき印鑑証明書を添付しますが、仮に相続人のうち一部が韓国に居住している場合は、韓国語での遺産分割に関する宣誓供述書を作成して、それに署名し公証人の認証を受ける必要があります。この場合は日本の法務局に提出しますので翻訳文もつけます。
かつては市区町村で取得できた外国人登録原票が閉鎖して法務省に送付、保管されたため、登記の世界では問題が起こってきています。そもそも法務省への請求も相続人本人が行うにはハードルが高いです。その他外国人登録原票が廃止された代わりの外国人住民票には、従前の住所が空欄、住所を定めた年月日も制度移行日が記載されておりますので、例えば住所変更登記など難しい状況です(実際には閉鎖外個人登録原票を取得することになります)。日本もグローバル社会に対応できるよう、このような小さな制度から使い勝手のよいものに変えていく必要があるのではないかと思います。